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おすすめシーン by 山戸監督

菅田将暉
夏芽と追いかけっこをするシーンは、気に入っていますね。宇宙の中でたった一回、ワンテイクしか撮れないような動きを撮りたいなと思っていて、あの頃体重を絞っていた菅田さんが舞うように、山の底を走っていく。振り付けやアクションとして動きをつけてもああいう風にはできなくて、菅田さんのセンスが爆発するままで走ってくれた、撮っててすごく爽快感のあるシーンでした。

撮影時には「全速力で、夏芽を捕まえようとしてください。2人は惹かれ合ってるように、かつ逃げて、でも絶対に触れないでください」とまさに無茶な要求をしているのですが、映っている2人の舞うような追いかけっこ、完璧に応えてくれたと思いますね。あんな追いかけっこするのは、この地球でふたりだけだなって。


小松菜奈
中盤で、小松さんと菅田将暉さんが水中に潜るシーンです。小松さんって水の中で前髪があがって眉毛やおでこが丸出しになると、宗教画みたいな美しさが滲み出るんです。撮ってる最中も異様な、代替の効かない感覚があって、それが作品全体にいいイメージを与えてくれてるなと思いますね。

水の中はすごく消耗するので、シーン自体はなかなか重ねて撮れないんですが、逆に少ないチャンスの中で、こちらも小松さんも集中して撮影ができたと思います。小松さんは水中に皮膚感覚がある方で、菅田さんもボディバランスが非常にいいので、2人だから撮ることができた、感情の篭った水中シーンになったと考えています。水の中で夏芽を演じる小松さんは、聖母マリアみたいで、私の人生でいちばん格好良い女の子でした。


重岡大毅
椿の花の前で、夏芽と笑い合うシーンです。予告にも使われているのですが、原作でも夏芽と大友が惹かれあっていることが読者だけには伝わってしまう、すごく大切なシーンなので、より細かい演出をする緊張感はありました。でも重岡さんのストレートさ、計算とかじゃなくて、てらいなくまっすぐ生きている感じを映画に輸入させてもらえたなと思いますね。彼の純粋さがスクリーンで光っていると良いなと思います。

撮影現場での様子 by 山戸監督

菅田将暉
撮影前に方向性として「夏芽のファム・ファタル(運命的な相手)としていて欲しい。告白して付き合って、デートに行くというごく普通の男女の段階をこの映画は踏みません。そういう一般化された恋愛関係の発展のさせ方を凌駕して、ただ、男と女が惹かれ合って触れ合う。それはコウが、言外にいつでも夏芽を誘惑しているからこそ、いつの間にか2人が触れ合ってしまうのは当然のことだと思えてくる、そんなふうに見えて欲しいとお伝えしました。この美しいふたつの肉体が惹かれあってしまうのは至極の道理なんだという存在でいてほしい」といったお話をしたんです。そうしたら菅田さんはちょっと遠い目になる感じで、「ああそういうことね」みたいな顔をされてるのが印象深かったです。事前打ち合せの中では、その言葉がいちばん伝わったのかなと感じて、実際イメージを叶えてくれました。

彼は体温というか、まとっているものが日によって変わる感じがありました。菅田さんを撮るならこう撮ろうとこちらがイメージを押し付けるんじゃなくて、彼の持ってる体温と世界をどう溶け合わせるのかという感覚を研ぎすまして見ていました。動物的な本能の部分みたいなものを見せられているかのように、刺激を受けれて、彼を撮るのはスリリングで楽しかったです。


小松菜奈
ホン(台本)読みの時に、私が「菜奈ちゃんの初主演映画だから、そう思って頑張るね」と言ったら、小松さんも「山戸監督にとっての初めての大きい映画だと思うので、頑張ります」と言ってくれたんです。私からはそういうことは何も言っていなかったので、女優さんが監督に対してそんな風に自主的に考えてもらえて、ああ本当に純粋な人なんだなと、心が動いた記憶があります。

撮影前に「小松さんを演出する上で、私は絶対に諦めることはなくて、私の方で小松さんがここまでだと決めることはなくて、『もっとできる、もっとできる』と言い続けるね」とお伝えして、あの透明な目で、小松さんは頷きました。私にとっては、それを映畫の神様が見ていると思うくらい、固い決意でした。そしてそれは実際の現場で実現されたので、こっちも苦しいけど、演じる方にとっても苦しいだろうし、一緒に山を登っていくみたいな感覚でした。いつもゴールは見えなくて、可能性がある限りリテイクする過酷さの中で、弱音を吐かずに戦ってくれました。

重岡大毅
速射的な反応があることが、すごく面白かったです。長い年月をかけて構築的に作っていくお芝居もあると思うんですが、アイドルの方は女性も男性も、超短期的な運動神経の良さ、身体反応の良さを持たれているので、そこがものすごい武器になるんです。その場で問いを投げて、彼から返ってくるものはとてもエキサイティングに撮らせていただいたと思います。

大友さんと夏芽のキスシーンは本当に粘って、非常に細かいところまで言いながら長回しで撮りました。カットを割ってしまったらもっと容易に撮影はできるんですが、キスシーンって、口と口が即物的にひっついてる画が大事なんじゃなくて、キスするまでの間合いや空気の流れがどう変容するのかの方が、女の子に繊細に響くところなんです。その場にはカメラマンさんと私と重岡さんと小松さんだけしかいなくて、すごく静かな部屋で、一つ間違えば違ってしまうという、後戻りできない空間でした。その一つの間違いを見逃さないように、全員が、ギリギリまで集中しました。

あと、スタイリストの伊賀大介さんにお願いして、絶妙に変なクマのTシャツを持ってきていただいて。衣装合わせの時に、重岡さんにいろんな種類のクマを合わせて考えました。夏芽に会って、お洒落しようとして、でもちょっと違うっていう。重岡さんは「どのクマになるのかな」と不安に思ってたかもしれないですね。

印象 by 山戸監督

 

菅田将暉

菅田さんは秀才的な方なのかなと思っていましたが、現場に入ると「この人は本当に天才なのだ」と思うことがすごく多かったです。役に対しても理性的なアプローチをされてるのかと予想していたのですが、生きていることの揺らぎの強い方でしたね。形式的な役からは零れ落ちる、もっと美味しい部分がはみ出ているというか、自分でも自分の力を持て余しているような印象が強くあって、そこを必ず撮りたいなと思いました。

まだ全然「ここがあるじゃん」と思わせるような、どれだけ多くの作品に出ていても、彼自身ももしかしてコントロールできないような力を感じるというか。そういった印象は、絶対全部プラスに持って行こうと考えていました。このコウ役は、最初から菅田さんにお願いしたかったのですが、今でも菅田さん以外はなかったと、菅田さんがこの時代にいたからこそ『溺れるナイフ』が撮れたんだと思っています。

 

小松菜奈

会う前に写真や映像で姿を見ていたので、きっとフォトジェニックな方なんだろうなと予想していました。けれども実際に初めて会ってみたら、「あっ、この人はフォトジェニックなのではなくて、写真や映像に収まらないくらいくらい、生身の肉体の力がある人なんだ」と思いました。何の誇張でもなく、人類で一番綺麗だと思いましたね。

その印象をカメラを通して出そうとするのは物語上の要請とはまた違うフェーズの問いでした。こんなに魅力的な人はもういないんだ、という感覚をカメラに焼き付けないといけないなと。皆の目には、生の小松さんも映画の小松さんも、物理的に違う人に見えてるわけじゃないのですが、あの肉体から発されている鮮烈なイメージを、複製芸術である映画が、その魅力ごと増幅して映せるように、と意識しました。

溺れるナイフ』の小松さんは、"過剰な身体性"がキーワードになってるかもしれません。もちろん彼女は容姿自体ものすごく整ってるから、お人形さんとして撮ることもできてしまうけれど、自分が監督として撮るならば、あの彼女の力を殺さず絶対生かしたいと思いました

 

重岡大毅

重岡さんにとって、これが初めての作品というわけではないのですが、彼にとっての処女作を撮ろうという気持ちがありました。きっと今でしか撮れないであろう存在のみずみずしさが彼には見えて、それを絶対捕まえ切ろう、という感じでした。彼にはまだ、体の外に出してない、内的なものがたくさんある気がしました。お芝居って所作なので、初めて会ったときの振る舞いを見て、「ああ、この人はまだ奥行きがたくさんある人なんだな」と思わせられました。

アイドルって基本的に笑顔の職業で、綺麗な笑顔の重岡さんは皆さん沢山見ていると思うのですが、「まだ笑ってない笑い方があるんじゃないか」とも思いました。この世で一回も重岡さんが見せたことのない笑顔を撮りたいなという感覚は、あったかもしれないですね。